Q&A

労務Q&A

中小企業の経営者・労務担当の方から実際によく寄せられる質問に、根拠となる条文を示したうえでお答えしています。制度の説明で終わらせず、 「ご相談のケースだとどうなるか」という当てはめまで書くようにしています。

現在 37 件を掲載中。掲載のない疑問は、フォームからお寄せください。

労働時間

振替休日と代休はどう違いますか?割増賃金は必要ですか?

「事前に入れ替えたか、事後に休ませたか」の違いです。そして、この違いで割増賃金の扱いが変わります

振替休日は、休日と労働日を事前に入れ替えるものです。就業規則に振替の規定を置き、振り替える休日を事前に特定して本人に通知していれば、元の休日はその週の労働日になるため休日労働そのものが発生せず、35%の休日割増は不要です。ただし振替後も、毎週1回(または4週4日)の休日(労働基準法35条)は確保されている必要があります。

代休は、休日に働かせた後から代わりの休みを与えるものです。休日労働をした事実は消えないため、働いた日が法定休日であれば、代休を与えても35%以上の割増部分の支払いは必要です(労働基準法37条)。賃金規程に定めを置いたうえで、135%のうち100%分を無給の代休で調整し、35%分を支払う、という設計がよく採られますが、規程の根拠なく当然に100%分を差し引けるわけではなく、賃金制度や代休の取得時期に応じた設計が必要です。

働いた日が法定休日ではない所定休日(法定外休日)の場合は、35%の休日割増は不要ですが、その週の労働時間が40時間を超えた部分には25%以上の時間外割増が必要です。

見落とされやすいのは、振替でも割増が出るケースです。週をまたいで振り替えた結果、ある週の労働時間が40時間を超えれば、超えた部分は時間外労働として25%以上の割増が必要になります。同一週内での振替なら週40時間超の問題は通常生じませんが、1日8時間を超える労働や変形労働時間制を採っている場合は別途の判定が必要です。「振替だから割増ゼロ」と覚えていると、ここで未払いが生まれます。なお、そもそも35%の割増が論点になるのは元の休日が法定休日の場合で、振替はその法定休日を労働日と入れ替えることで休日労働の発生自体を防ぐ仕組みです。また、時間外労働や法定休日労働をさせる前提として、36協定の締結・届出が必要です。

まず、就業規則に休日振替の規定があるか、法定休日がどの日か特定されているか、そして「振替」と呼んでいる運用が実態は事後の代休になっていないか、直近の休日出勤の処理をご確認ください。

根拠労働基準法35条(休日) / 労働基準法37条(割増賃金)

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36協定の特別条項を使えば、繁忙期は月何時間まで残業させられますか?上限を超えるとどうなりますか?

特別条項を結んでいても、単月では休日労働を含めて100時間未満が絶対の上限です。「特別条項があれば青天井」ではありません。守るべき上限が4つあるので、順に確認してください。

まず原則として、36協定で延長できる時間外労働は月45時間・年360時間までです。特別条項は、臨時的な特別の事情がある場合にこれを超えられる仕組みですが、その場合も次の4つをすべて満たす必要があります(労働基準法36条5項・6項)。

  1. 年720時間以内(時間外労働のみ。休日労働は含まない)
  2. 単月100時間未満(時間外労働+休日労働の合計)
  3. 複数月平均80時間以内(2か月・3か月・4か月・5か月・6か月のいずれの平均も。時間外労働+休日労働の合計)
  4. 月45時間を超えられるのは年6か月以内

見落とされやすいのが2と3です。この2つだけは休日労働を合算して判定します。旅館業のように休日出勤で人手を確保する場面では、時間外だけを見て安心していると超えてしまいます。また3の「複数月平均」は、直近2か月の平均も、直近6か月の平均も、すべてが80時間以内でなければなりません。8月に95時間使うと、9月以降を大幅に抑えないと平均が超えます。繁忙期は単月ではなく数か月単位で設計する必要があるのは、このためです。

上限を超えた場合、労働基準法違反として6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象になります(同法119条)。実務上は労働基準監督署の是正勧告が先に来ることが多いですが、上限規制違反は是正勧告の対象として重く扱われます。

あわせて確認していただきたい点が3つあります。1つ目は、法律の上限以内であっても、自社の36協定で定めた時間を超えれば違法になるということです。協定で「月60時間まで」と定めていれば、その60時間が実際の上限になります。2つ目は、特別条項を使う場合、健康福祉確保措置などを協定で定めておく必要があることです。3つ目は、1年単位の変形労働時間制で対象期間が3か月を超える場合、原則の限度が月42時間・年320時間に下がる点です。

いま繁忙期の最中とのことなので、まずは調理場とフロントの直近数か月の実績時間を、休日労働を含めて集計してください。残りの月にどれだけ余裕があるかは、それを出さないと判断できません。あわせて、自社の36協定に何時間と書いてあるかもご確認ください。

根拠労働基準法36条4項〜6項(時間外労働の上限) / 労働基準法119条(罰則)

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年次有給休暇

有給休暇を「半日だけ」「1時間だけ」取らせることはできますか?

どちらも可能です。ただし、必要な手続と「使用者の年5日取得確保義務」への影響が異なるので、分けて整理します。

半日単位。労働基準法に定めはありませんが、労働者が希望し、使用者が同意すれば半日単位で与えて差し支えないとされています。労使協定は不要です。ただし安定して運用するなら、就業規則に半日単位取得の定めと「半日」の区切り方(午前・午後で分ける、所定労働時間の2分の1で分ける等)を明記しておくのが望ましいところです。半日で取得した分は、使用者が年5日取得させる義務(時季指定義務・労働基準法39条7項)の5日に0.5日として算入できます

時間単位。こちらは労働基準法39条4項に基づく制度で、労使協定の締結が必要です。協定では、対象労働者の範囲、時間単位で与えられる日数(年5日以内)、1日分に相当する時間数などを定めます。年5日を超えて時間単位で与えることはできません。そして見落とされがちな注意点として、時間単位で取得した分は、使用者の年5日取得確保義務の「5日」にカウントできません。時間単位ばかりで消化する従業員がいると、年5日義務が未達になるおそれがあります。

制度を整えないまま「1時間だけ有給ね」と口約束で認めると、賃金計算と残日数管理が崩れます。半日0.5日・時間単位の残数を手作業のExcelで追うのは誤りやすいところで、勤怠システム側の設定が制度と一致しているかも重要です。一方で、通院や子どもの送迎といった短時間の中抜けニーズには時間単位年休は有効で、「丸1日休むほどではないから」と取得をためらう層のハードルを下げる効果があります。

まず、自社に時間単位年休の労使協定があるか、就業規則に半日単位の定めがあるか、そして勤怠システムの年休管理が0.5日・時間単位に対応しているかをご確認ください。

根拠労働基準法39条4項(時間単位年休) / 労働基準法39条7項(年5日の時季指定義務)

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正社員からパートに変わったら、有給休暇はリセットされますか?

リセットされません。年次有給休暇は、継続勤務と直前1年間(初回は6か月間)の全労働日の8割以上の出勤を要件に、勤続年数に応じて日数が積み上がる制度です(労働基準法39条)。この「継続勤務」は雇用形態の名称ではなく、実態として雇用が続いているかで判断します。正社員からパートへの転換、定年後の再雇用、有期契約の更新でも、勤務実態が続いていれば勤続年数は通算するのが行政解釈で、契約を形式的に切り替えてもリセットはされません。

すでに付与されている日数もそのままです。転換時点で残っている有給は消えず、繰越のルール(付与から2年で時効消滅)も変わりません。「パートになったので有給は一旦ゼロです」という説明は誤りで、後から未消化分を請求されるトラブルの元になります。

転換後の付与日数は次のとおりです。週の所定労働時間が30時間未満で、かつ週の所定労働日数が4日以下(シフト制などで週の日数が決まっていない場合は年216日以下)の勤務になった場合は、日数を按分する比例付与(労働基準法施行規則24条の3)に切り替わりますが、日数を決めるのは基準日(付与日)時点の所定労働日数です。

  • 基準日のにパートへ転換 → その年にすでに付与された日数は変わりません(フルタイム基準のまま)
  • 転換に基準日が到来 → その基準日時点の契約内容(週3日なら週3日)で付与されます

勤続年数は通算で見るため、たとえば勤続6年6か月以上で週3日勤務なら11日、のように「勤続は長いが日数はパート基準」という組み合わせになります。

実務でつまずきやすいのは、勤怠システム上で転換時に退職・新規登録の処理をしてしまい、勤続年数と有給残がリセットされるケースです。人の異動ではなく契約の変更として履歴をつなげてください。

まず、雇用形態を変更した従業員について、年次有給休暇管理簿の勤続年数が通算されているか、次回基準日の付与日数が転換後の所定労働日数で設定されているかをご確認ください。

根拠労働基準法39条(年次有給休暇・継続勤務) / 労働基準法施行規則24条の3(比例付与)

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週3日勤務のアルバイトにも有給休暇は必要ですか?年5日の取得義務も対象になりますか?

有給休暇は必要です。ただし年5日の取得義務のほうは、勤続2年の時点では対象になりません。この2つは別の話なので、分けて考えてください。

有給休暇について。週の所定労働時間が30時間未満で、かつ週の所定労働日数が4日以下のパート・アルバイトには、日数を按分した「比例付与」が適用されます(労働基準法39条3項)。シフト制などで週の所定労働日数が決まっていない場合は、年間の所定労働日数が216日以下であることが比例付与の要件です。

週3日勤務の場合の付与日数は、次のとおりです。事業場の規模は関係ありません。

勤続期間 6か月 1年6か月 2年6か月 3年6か月 4年6か月 5年6か月 6年6か月以降
付与日数 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日

勤続2年であれば、直近の付与は1年6か月時点の6日です。なお、それぞれの付与にあたっては、直前の期間について全労働日の8割以上出勤していることが必要です。

年5日の取得義務について。会社が時季を指定してでも年5日取得させる義務の対象は、その基準日に新たに10日以上が付与される人です(同条7項)。ここは前年からの繰越分を足して10日以上になっても対象にはならない、という点に注意してください。週3日勤務の方が新たに10日以上付与されるのは勤続5年6か月からなので、勤続2年の時点では対象外です。

つまり、有給は与える必要があるが、会社から時季を指定して取らせる義務はまだない、という状態です。本人から時季を指定して請求された場合は、原則としてその時季に与えなければなりません。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に変更できることがあります。

根拠労働基準法39条3項(比例付与) / 労働基準法39条7項(年5日の時季指定義務)

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賃金・割増

残業時間を15分単位で切り捨てて計算しています。問題ありますか?

問題があります。日々の残業時間を15分単位で切り捨てる運用は、切り捨てた分の賃金が未払いになっている状態で、賃金全額払いの原則(労働基準法24条)に反すると判断されるおそれがあります。労働時間は1分単位で把握し、賃金を計算するのが原則です。

例外として行政通達(昭和63年3月14日基発150号)が認めているのは、1か月分を合計した後の端数処理だけです。具体的には、1か月における時間外労働・休日労働・深夜労働のそれぞれの時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理です。常に労働者の不利になるものではなく、事務簡便を目的としたものだから、という理由で認められています。

つまり同じ「丸め」でも扱いは正反対です。

  • 毎日の打刻や残業時間を15分・30分単位で切り捨てる → 認められない
  • 1か月の合計時間の1時間未満の端数を30分基準で処理する → 認められる

日々の切り捨ては1か月・1年と積み上がり、遡っての未払い残業代の請求や、労働基準監督署の調査時の是正指導の対象になります。賃金請求権の消滅時効は当分の間3年とされており、影響額は小さくありません。

勤怠システムやExcelには丸め設定が用意されていることが多いですが、機能として存在することと適法であることは別です。打刻データは1分単位のまま保持し、月次集計後の端数だけを処理する設定が安全です。なお、正確に言うと問題になるのは「打刻の丸め」そのものではなく、丸めの結果、実際に働いた時間が賃金計算から漏れることです。打刻時刻と労働時間が一致しない場面(始業前の着替えや準備時間など)は、丸めで調整するのではなく、使用者の指揮命令下にあったかという実態で労働時間かどうかを判断すべき問題です。

まず、自社の勤怠システムやExcelの丸め設定が「日々の打刻」と「月次集計後」のどちらの段階で丸めているかをご確認ください。

根拠労働基準法24条(賃金全額払いの原則) / 労働基準法37条(割増賃金) / 昭和63年3月14日基発150号(割増賃金計算における端数処理)

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残業代の単価に通勤手当や家族手当も入れて計算するのですか?

通勤手当と家族手当は、要件を満たせば単価の基礎から除外できます。ただし「手当だから外せる」のではありません。除外できる賃金は法令で限定列挙されています(労働基準法37条5項・労働基準法施行規則21条)。

除外できるのは次の7つだけです。

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

ここにない手当——役職手当・資格手当・精勤手当・皆勤手当など——は、所定労働に対して通常支払われる賃金である限り、名称にかかわらず割増賃金の基礎に算入します。

さらに重要なのは、名称ではなく実態で判断されることです。

  • 「家族手当」でも、扶養家族の人数などに関係なく一律に支給しているものは除外できません。
  • 「住宅手当」でも、家賃や住宅ローン額など住宅に要する費用に応じて算定していない一律支給は除外できません。
  • 「通勤手当」でも、通勤距離や実費と無関係に一律で支給している部分は算入が必要です。

月給制の場合の1時間あたりの単価は「(月給のうち算入対象の賃金)÷1か月平均所定労働時間」が基本形です。時間外労働にはこの単価の125%以上(単価100%+割増部分25%以上。月60時間を超える時間外は割増部分50%以上=150%以上)を支払います。日給や歩合給が併存する場合は、賃金形態ごとに定められた計算方法で算出した額を合算します。除外してよい手当を算入してしまう分には労働者有利なので違法にはなりませんが、除外できない手当を外していると、未払いが毎月・全員分発生します。手当の新設や所定労働時間の変更があったのに単価を更新していない、というのも定番の事故です。

まず、給与計算システムやExcelの単価計算式に、どの手当が含まれ・除外されているかを賃金規程と突き合わせてご確認ください。手当の支給実態と名称がずれている場合は、規程側の整理もあわせて検討が必要です。

根拠労働基準法37条5項(割増賃金の基礎から除外する賃金) / 労働基準法施行規則21条(除外賃金の範囲)

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今年も最低賃金が上がると聞きました。いつから・いくらになって、何を確認すればいいですか?

2026年度も大幅な引き上げが見込まれています。 中央最低賃金審議会は2026年7月28日、引き上げ目安をAランク54円・B/Cランク56円とする答申をまとめました。目安どおりなら全国加重平均は1,121円から1,176円(+55円・4.9%)に上がる水準です。8月中旬時点で、この目安を踏まえた都道府県ごとの答申が順次出ており、目安への上積みも見られます(本稿は2026年8月18日時点の情報です)。金額と発効日は都道府県ごとに異なり、例年10月前後の発効です。答申の段階ではまだ確定ではなく、異議申出の手続きを経た都道府県労働局長の決定・公示で金額と発効日が確定します。給与改定は答申額で先走らず、事業場所在地の労働局の公示を必ず確認してください(複数の都道府県に事業場がある会社は、それぞれの所在地の最低賃金で確認します)。

最低賃金は契約より強い、という点がまず前提です。地域別最低賃金を下回る賃金の定めは、たとえ本人が合意していてもその部分が無効になり、最低賃金額で契約したものとみなされます(最低賃金法4条)。差額は未払賃金です。

確認は次の3点セットで行います。

  1. 時給者は単純比較。発効日以降の勤務分から新しい最低賃金以上になっているか
  2. 月給者は時給に換算して比較します。計算式は「(最低賃金の対象となる賃金の月額)÷(月平均所定労働時間)」。年間所定労働日数から月平均所定労働時間を出して割り算します。基本給が動いていなくても、最低賃金側が毎年上がるため、据え置きの月給が下から追い抜かれることが実際に起きています
  3. 比較から除外する賃金に注意。比較対象は、基本給と、除外対象に当たらない毎月の諸手当(職務手当・資格手当など)の合計です。時間外・休日・深夜の割増賃金、精皆勤・通勤・家族手当、賞与は含めません。とくに固定残業代(定額の時間外手当)は割増賃金として除外したうえで比較する必要があり、ここが最も多い見落としです

実務上の対応としては、毎年「夏の答申が出たら仮点検、自県の決定・発効日が公示されたら発効前に最終点検」という年中行事に仕組み化してしまうことです。給与計算ソフトやExcelの単価マスタに、従業員ごとの「換算時給」と「所在地の最低賃金」を並べた列を作り、差額がマイナスになったら色が変わるようにしておけば、来年以降は数値を1つ更新するだけで全員分の点検が終わります。改定は毎年来るので、手作業の見直しではなく、マスタ更新1回で回る形に作り替えておくのがおすすめです。

根拠最低賃金法4条(最低賃金の効力) / 中央最低賃金審議会の目安答申(2026年7月28日)・各地方最低賃金審議会の答申状況(2026年8月18日時点で確認)

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欠勤や遅刻をした分の給与カットは、どう計算すればいいですか?

実は、欠勤控除の計算式は法律に定めがありません。働かなかった時間分の賃金を支払わないこと自体は、いわゆるノーワーク・ノーペイの原則として認められます。ただし「いくら引くか」は、会社がルールを決めて明文化し、毎回同じ計算で運用する必要があります。常時10人以上の事業場では就業規則の作成義務があり、賃金の計算方法はその絶対的必要記載事項です(労働基準法89条)。10人未満で就業規則がない場合も、賃金規程や雇用契約書で計算方法を明確にしておくべきです。

決めておくべきポイントは主に3つです。

1. 分母。月給を何で割って日額・時間額を出すか。「その月の所定労働日数」「年間平均の月所定労働日数」などの方式があります。ただしどの方式でも、控除額が欠勤時間に対応する賃金額を超えない(働いた分まで削らない)ことが前提で、月ごとに控除額が変わることを踏まえて、その都度都合のよい方式に使い分けることはできません

2. 控除対象とする賃金の範囲。基本給のみか、諸手当も日割りするか。会社が自由に選べるわけではなく、各手当の支給条件(何に対する対価か)と欠勤との対応関係から整理します。欠勤時の通勤手当の扱いも決めどころです。

3. 端数処理。時間の分単位、金額の円未満の扱いを固定します。

注意すべきは減給の制裁との区別です。「遅刻3回で半日分カット」のように、働かなかった時間に相当する額を超えて賃金を減らすのは制裁であり、1回につき平均賃金の1日分の半額以内・総額でその賃金支払期の賃金総額の10分の1以内という制限がかかります(労働基準法91条)。制裁として行うなら就業規則の制裁規定も必要です。時間相当分を超える控除を「欠勤控除」の名目で行ってしまうのが典型的な誤りです。

計算ルールさえ決まれば、給与計算システムやExcelに設定して自動計算にできます。毎月担当者が手で判断している状態は、計算ミスと従業員の不信の両方の原因になります。

まず、自社の賃金規程に欠勤・遅刻・早退の控除計算式が明記されているか、そして実際の給与計算がその式のとおりに行われているかをご確認ください。

根拠労働基準法89条(就業規則の必要記載事項) / 労働基準法91条(減給の制裁の制限)

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祝日に出勤してもらったら、35%増しの割増賃金を払わないといけませんか?

祝日に出勤したというだけで、35%増しが必要になるわけではありません。35%以上の割増が必要なのは、その日が「法定休日」に当たる場合です。

労働基準法35条が使用者に義務づけているのは、毎週少なくとも1回の休日(または4週を通じて4日以上)です。これが法定休日で、この日に働かせたときに35%以上の割増が必要になります(同法37条1項)。国民の祝日を会社の休日にすることは労働基準法上の義務ではないため、祝日が当然に法定休日になるわけではありません。

ただし、就業規則や勤務表でその祝日を法定休日として定めている場合や、実際の休日の与え方からその日が法定休日と評価される場合には、35%以上の割増が必要になります。「祝日だから不要」と機械的に判断しないでください。

日曜定休とのことですが、それだけで日曜日が法定休日になると決まるわけではありません。就業規則で日曜日を法定休日と明確に定めており、その週の日曜に休みが確保されていて、祝日は法定外の休日という位置づけであれば、祝日出勤について35%の割増は原則として不要です。

法定休日を特定していない場合は注意が必要です。週に休日が複数あり、そのすべてに出勤させたようなときは、どれが法定休日労働に当たるかを実際の休日の与え方から判定することになります。行政実務では、就業規則に定めがなければ暦週を日曜日から土曜日までとして扱い、その週の複数の休日に出勤した場合、後順に位置する休日の労働を法定休日労働として扱う考え方があります。後々のトラブルを避けるためにも、就業規則で法定休日を特定しておくことをおすすめします。

時間外の割増も別に発生します。祝日が法定外の休日である場合でも、その勤務によって1日8時間または週40時間を超えた部分には25%以上の割増が必要です。連休中のセールで労働時間が伸びる場面では、ここが実際の負担になります。なお、常時10人未満の商業などには週44時間の特例があり、変形労働時間制を採用している場合も判定が変わります。また、1か月60時間を超える時間外労働には50%以上、深夜(午後10時〜午前5時)の労働には25%以上の割増が加わります。

最後に2点。時間外労働や法定休日労働をさせるには、原則として36協定の締結と届出が必要です。そして、就業規則や雇用契約で法律を上回る休日手当を定めている場合は、その定めに従って支払う必要があります。まずは自社の就業規則がどう定めているかをご確認ください。

根拠労働基準法35条(休日) / 労働基準法37条(割増賃金)

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採用・労働条件

パートを採用するとき、書面で何を渡せばよいですか?ルールが変わったと聞きました。

労働条件通知書(または労働条件を明記した雇用契約書)を渡します。2024年4月から明示すべき項目が追加されているので、古いひな形を使い回している場合は注意が必要です。

書面で明示しなければならない主な事項は、①契約期間、②有期契約なら更新の基準、③就業の場所と従事する業務、④始業・終業時刻、所定時間外労働の有無、休憩・休日・休暇、交替制のルール、⑤賃金の決定・計算・支払方法、締切日と支払日、⑥退職に関する事項(解雇事由を含む)です(労働基準法15条1項、同法施行規則5条)。昇給に関する事項は明示は必要ですが書面でなくても構いません。

2024年4月に追加された項目が3つあります。1つ目は、すべての労働者に対する就業場所・業務の「変更の範囲」の明示です。採用直後の配置だけでなく、契約期間中に変わり得る範囲まで書く必要があります。2つ目は、有期契約における更新上限の有無と内容。3つ目は、無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングでの、無期転換の申込機会と転換後の労働条件の明示です。

パートタイム・有期雇用労働者にはこれに加えて、昇給・退職手当・賞与の有無と相談窓口の明示が必要です(パートタイム・有期雇用労働法6条、同法施行規則2条)。

実務上の注意点を3つ。1つ目は、明示の方法です。原則は書面の交付ですが、労働者が希望した場合に限り、メールなど出力して書面を作成できる方法での明示も認められます。本人が希望していないのにメールだけで済ませることはできません。2つ目は、就業場所・業務の「変更の範囲」の書き方です。将来のあらゆる可能性を書き並べる必要はなく、契約期間中に通常想定される範囲を記載します。3つ目は、有期契約の更新上限を契約締結後に新たに設けたり短縮したりする場合、その理由をあらかじめ本人に説明する必要があることです。

厚生労働省が労働条件通知書の様式を公開しているので、それをベースに自社の実態を反映させるのが確実です。

根拠労働基準法15条1項(労働条件の明示) / 労働基準法施行規則5条

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就業規則

退職届は2週間前でよいのでしょうか?就業規則には「1ヶ月前」と書いてあります。

期間の定めのない雇用契約(典型的には無期契約の正社員)の場合、民法627条1項により、労働者はいつでも退職を申し入れることができ、申入れから2週間が経過すれば雇用契約は終了します。会社の承諾は不要です。月給制であっても、2020年4月施行の改正民法で、期間によって報酬を定めた場合の特則(同条2項)は使用者側からの解約申入れに適用されるものと整理されたため、労働者からの退職は2週間で足りると解されています。

では就業規則の「1か月前」は無意味なのか。退職の効力との関係では、民法の2週間が優先するという見解が有力です(この論点には議論があり、個別事情で判断が分かれ得ますが、少なくとも就業規則を根拠に2週間経過後の退職を一律に認めない、退職金を支払わない、といった対応は法的リスクが大きいと考えてください)。一方で、この規定が無意味というわけでもありません。引継ぎや後任の手配のために早めの申出への協力を求める根拠としては機能しますし、実際の退職の多くは、話し合いによる合意退職として就業規則に沿った日程で円満に処理されています。

経営者側の実務としては、次の3点を押さえておくと安全です。

  • 「1か月前ルール」は強制ではなく、協力依頼として運用する
  • 引継ぎをしない退職者への損害賠償請求や退職金不支給を安易に持ち出さない(認められにくく、紛争を深くします)
  • 有期契約は別のルールで、契約期間の途中の退職には原則としてやむを得ない事由が必要です(民法628条)。ただし契約期間が1年を超える場合は、一部の例外を除き、契約開始から1年を経過すれば労働者はいつでも退職を申し出られます(労働基準法附則137条)

なお、退職の申出が2週間前ギリギリになる背景には、言い出しにくい職場の空気があることも少なくありません。規則で縛るよりも、引継ぎ資料の標準化や業務の属人化解消のほうが、突然の退職への実効的な備えになります。

まず、自社の就業規則の退職条項と、退職の申出を受けたときの標準フロー(受理の記録・引継ぎ計画・貸与物や情報アクセスの整理)が決まっているかをご確認ください。

根拠民法627条1項(期間の定めのない雇用の解約申入れ) / 民法628条(やむを得ない事由による解除) / 労働基準法附則137条(1年超の有期契約の退職)

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タイムカードや賃金台帳は何年保存すればいいですか?捨ててもいい書類はありますか?

労働関係の主要書類の保存期間は原則5年、当分の間は3年です(労働基準法109条・143条)。対象は、労働者名簿、賃金台帳、雇入れ・解雇・災害補償・賃金その他労働関係に関する重要な書類で、タイムカードなど労働時間の記録もここに含まれます

注意したいのは、起算日が書類ごとに違うことです(労働基準法施行規則56条)。

書類 起算日
労働者名簿 労働者の死亡・退職・解雇の日
賃金台帳 最後の記入をした日
雇入れ・退職に関する書類 労働者の退職・死亡の日
タイムカード等の重要書類 その完結の日

賃金台帳やタイムカードのように賃金の支払いに関わる書類は、賃金支払期日が起算日より後の場合、支払期日から数えます。「作成日から3年」で機械的に廃棄すると、早すぎることがあります。

では「当分の間3年」なら3年で捨ててよいか。おすすめしません。未払賃金の請求権の消滅時効も5年(当分の間3年)とされており、いずれ5年に揃うことが想定された経過措置です。紛争になったとき、勤怠記録が手元にないことは会社側の不利に働きます。実務は5年保存を基本にしておくのが安全です。

労働基準法以外の書類は年限が別建てです。たとえば健康診断個人票は5年、雇用保険の被保険者関係書類は4年(その他の雇用保険関係は2年)、健康保険・厚生年金の届出関係は2年、扶養控除等申告書などの源泉関係は7年。逆にマイナンバーが記載された書類は、法令の保存期間が過ぎて事務に必要がなくなったら、速やかに廃棄・削除する運用が求められる点も忘れがちです(保存期間中に捨てるという意味ではありません。たとえば扶養控除等申告書は退職後も法定の起算日から7年間の保存が必要です)。「何を・何年・いつから数えて・どう捨てるか」を書類別の一覧表にしておくと迷いません。紙のまま5〜7年分を保管すると場所も検索性も問題になるため、法令上の電子保存の要件(表示・印刷できることなど)を満たしたうえで、スキャンして電子保存する体制づくりも検討に値します。

まず、自社の書類ごとの保存年限と起算日を一覧にし、廃棄の判断が担当者の記憶に頼らない運用になっているかをご確認ください。

根拠労働基準法109条・143条(記録の保存・経過措置) / 労働基準法施行規則56条(保存期間の起算日)

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従業員が10人未満なら就業規則は作らなくていいのでしょうか?

法律上の作成・届出義務はありません。ただし「作らなくてよい」と「作らないほうがよい」は別で、実務上は作成をおすすめします。

就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務づけられるのは、常時10人以上の労働者を使用する事業場です(労働基準法89条)。この10人にはパート・アルバイトも含まれます。9人であれば義務はありません。

注意していただきたいのが、この判定が会社単位ではなく事業場単位である点です。2店舗目を出す計画があるとのことですが、原則として店舗ごとに人数を数えます。ただし、場所が分かれていれば必ず別の事業場になるわけではありません。労務管理や指揮監督、業務運営の面で独立性が乏しい場合は、複数の店舗が一つの事業場として扱われることがあります。

また「常時」10人以上というのは、その日その日の在籍人数ではなく通常の使用状態で判断します。繁忙期だけ10人になるのではなく、常態として10人以上であれば義務が生じますし、逆に一時的に9人になる日があっても義務は消えません。

義務がない段階でも作成を勧める最大の理由は、懲戒処分の根拠です。懲戒処分を有効に行うには、原則としてあらかじめ懲戒の種類と事由を定め、労働者に周知しておく必要があります。9人以下であれば法定の就業規則に限られるわけではありませんが、そうした定めが何もないまま処分をすると、根拠を欠いて無効となるリスクが非常に高くなります。休職や服務規律の根拠も同様です。人が増えてから慌てて作るより、9人の今のうちに整えておくほうが、内容も実態に合ったものになります。

根拠労働基準法89条(作成・届出義務)

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労務のIT化

社会保険の手続きは電子申請が義務なのですか?GビズIDとは何ですか?

大半の中小企業には義務ではありません。電子申請が義務化されているのは「特定法人」に該当する法人の、しかも一定の手続きに限られます。 ただ、義務かどうかと使うべきかどうかは別の話で、任意の会社にとっても電子申請は実利の大きい選択肢です。

義務の範囲を正確に押さえましょう。電子申請が義務になる「特定法人」は、事業年度開始時の資本金・出資金等の額が1億円を超える法人のほか、資本金の額にかかわらず相互会社・投資法人・特定目的会社が対象で、2020年4月以後に開始する事業年度から適用されています。義務の対象手続きも限定されており、社会保険では算定基礎届・月額変更届・賞与支払届(70歳以上被用者分を含む)、ほかに労働保険の年度更新申告書や雇用保険の資格取得・喪失届などの一定の手続きのみです。すべての手続きが電子化義務になったわけではなく、特定法人に該当しない法人には原則として義務はありません。また、特定法人であっても、災害や通信回線の故障などで電子申請が困難と認められる場合の例外が設けられています。

GビズIDは、1つのアカウントで複数の行政サービスにログインできる、法人・個人事業主向けの共通認証システムです(パスワードに加えてアプリ等での多要素認証を使います)。代表者等が審査を経て取得するGビズIDプライムがあれば、無料で、電子証明書なしで社会保険の電子申請ができます。従業員が実務を担う場合は、プライムからGビズIDメンバーのアカウントを発行して使わせる形になります。取得したIDは社会保険のほか補助金申請(jGrants)などにも使い回せます。

任意でも電子申請を勧める理由は処理の速さと記録です。窓口・郵送では往復や開庁時間の制約がありますが、電子申請は原則24時間提出でき、対応する手続きでは審査状況が画面で追え、控え(公文書)も電子データで返ってきます。入退社が月に数件ある会社なら、移動と郵送待ちの時間がそのまま消えます。

実務上の始め方は、①GビズIDプライムを取得する(審査があるためアカウント発行までの日数を見込んで早めに。要件を満たせばオンラインで完結する取得方法もあります)、②日本年金機構の届書作成プログラム(無料)かe-Gov、または労務ソフトの電子申請機能を選ぶ、③まず資格取得届など件数の多い手続きから電子に切り替える、の順です。このとき、従業員情報をCSVで取り込める形に整えておくと、届書への再入力・転記が大きく減り、紙の様式に書き写していた時間を確認作業だけに圧縮できます。

根拠厚生年金保険法施行規則等の改正(特定法人の電子申請義務化・2020年4月以後に開始する事業年度から適用) / 日本年金機構「電子申請(GビズID)」案内

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給与計算をExcelやスプレッドシートで自動化しても問題ないですか?気を付けることはありますか?

手段は自由です。給与計算を何で行うかについて法律の指定はなく、Excelでもスプレッドシートでも構いません。ただし、計算結果の責任はすべて使用者が負います。 「勤怠を入力するだけで明細まで自動で出る」仕組みは作れますが、間違った計算式が毎月正確に実行され続けるのも自動化です。

法律が求めているのは結果です。賃金は、法令に別段の定めがある場合(税・社会保険料の控除など)や労使協定に基づく控除を除き、全額を支払わなければならず(労働基準法24条)、計算誤りによる払い漏れは、ツールが何であれ未払賃金です。また、労働日数・労働時間数・時間外労働時間数・基本給や手当の種類ごとの額・控除額など法定の記載事項を備えた賃金台帳を調製し、5年間(当分の間は3年間)保存する義務があります(労働基準法108条・109条・143条、施行規則54条)。電子で保存する場合も、労働基準監督署から求められたときに画面表示・印字してすぐ出せる状態が前提です。明細の見た目だけ整えて、台帳として必要な項目が残っていないシートは要注意です。

Excel給与計算で実際に事故が起きるのは、次の3パターンです。

  1. 料率・単価の更新漏れ。改定のタイミングは制度ごとに違います。協会けんぽの都道府県単位保険料率は通常3月分から(健康保険組合は各組合の定めによります)、雇用保険料率は年度単位、標準報酬月額の定時決定は9月分から、住民税の特別徴収は6月から、源泉徴収税額表は改正があれば1月から、最低賃金は例年10月前後に都道府県ごとに順次発効。計算式の中に古い率が固定されたまま回り続けるのが典型です
  2. 端数処理の不統一。時間の丸め・割増単価・保険料の端数をセルごとにバラバラに四捨五入していると、検算しても合わない台帳ができあがります。処理ルールを1か所に決めて統一します。なお、日々の労働時間を15分単位などで一律に切り捨てる設定は端数処理として認められず、未払賃金の原因になります(行政解釈上認められているのは、1か月の時間外等の合計に対する30分未満切捨て・30分以上切上げなどに限られます)
  3. 属人化。作った人しか構造を知らないシートは、退職や引き継ぎの瞬間にブラックボックス化します

実務上の対応としては、まず「入力シート(勤怠・支給項目)」「マスタシート(料率・単価・端数ルール)」「計算結果」を分離することです。毎月触るのは入力だけ、改定時に触るのはマスタだけ、という構造にすれば、点検箇所が1枚に集約されます。そのうえで、上記1の制度ごとの適用時期をチェックリスト化して年間予定に載せ、前月比の差異一覧で毎月検算する。スプレッドシートなら、アクセス権と共有範囲の設定・数式セルの保護・変更履歴も点検項目です。ここまで作り込めない規模になってきたら、料率更新を自動でやってくれる給与計算ソフトへ移る方が安全です。移行のときも、上の構造で整理されたExcelはそのまま設計書になります。

根拠労働基準法24条(賃金の全額払い) / 労働基準法108条・労働基準法施行規則54条(賃金台帳の調製・記載事項) / 労働基準法109条・143条(記録の保存・5年、当分の間3年)

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従業員のマイナンバーは、いつまで保管して、いつ廃棄すればいいですか?

「必要がある間は保管し、必要がなくなったら速やかに廃棄する」が原則です。 マイナンバーは社会保障・税などの法定事務にしか使えず、事務に必要な場合を除いて保管し続けること自体が認められていません(番号法20条、特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編))。「とりあえず全部残しておく」が通用しない、他の人事データと逆向きのルールです。

具体的な判断は二段階です。

  1. 在職中は、給与所得の源泉徴収票や社会保険の手続きで毎年利用するため、雇用契約が続く限り保管を継続できます
  2. 退職後は、マイナンバーが記載された書類ごとに法令の保存期間を確認し、その期間が過ぎ、他の法定事務でも使う必要がなくなった書類から順に廃棄・削除します。逆に、法令上の保存期間が定められていない書類・データは、事務に不要となった時点でできるだけ速やかに廃棄・削除が必要です

マイナンバーが記載される代表的な書類の保存期間を挙げると、扶養控除等申告書は提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年(税法)、雇用保険の被保険者に関する書類は完結の日から4年(雇用保険法施行規則)です。「退職したら即廃棄」でも「一律○年」でもなく、書類別の廃棄予定表を作るのが正解です。なお、法定保存期間中は、番号を含む書類・データを法令上認められた方法(紙の保存のほか、要件を満たす電子データでの保存)で保存する必要があります。保存義務がなくなった後に書類自体を別の目的で残したい場合は、番号部分を復元できない程度にマスキング(黒塗り・削除)すれば保管を続けられます(残った情報も個人データなので、使う必要がなくなれば遅滞なく消去に努めるのが個人情報保護法上の原則です)。

廃棄の方法と記録にも決まりがあります。紙はシュレッダー等の復元不可能な手段で、データは復元できない方法で削除し、安全管理措置の一環として廃棄・削除した記録を残すことが求められます(記録に番号そのものは書きません)。廃棄のタイミングは、ガイドラインも「毎年度末に廃棄を行う」など、あらかじめ定めた事務処理サイクルの中で定期的に廃棄する運用を認めています。

実務上の対応としては、廃棄を「気づいたときにやる作業」から「仕組み」に変えることです。従業員ごとに退職日と書類別の廃棄予定日を並べた一覧を作り、年度末など決まったサイクルで廃棄・記録までをセットで実行する。労務システムやマイナンバー管理システムを使っているなら、退職日から削除予定日を管理し削除ログを残す機能があるかを確認し、あれば有効にしておきましょう。収集から廃棄までがデータ管理です。

根拠行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号法)20条 / 個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」

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雇用契約書や労働条件通知書は、メール送付や電子契約サービスでも有効ですか?

有効です。ただし「労働条件通知書」と「雇用契約書」で根拠が違うので、分けて整理する必要があります。

労働条件通知書(労働条件の明示)は、労働基準法15条により採用時の書面明示が原則ですが、2019年4月から、労働者が希望した場合に限り、FAXや、電子メール・SNS等の受信者を特定して伝達できる個別のメッセージ機能で明示できるようになりました(労働基準法施行規則5条4項)。掲示板やタイムラインのような不特定向けの投稿は含まれません。ポイントは二つです。

  1. 労働者側の希望が要件であること。会社の都合だけで電子に一本化はできません。希望自体は口頭でも成立しますが、後の紛争防止のため、「メールでの受け取りを希望します」という返信やチェックボックスなど、希望した事実の記録を残してください
  2. 出力して書面を作成できる形式であること。PDF添付が典型です。本文が流れてしまうチャットだけで済ませず、添付ファイルで渡すのが安全です

雇用契約書の方は、もともと法律上、書面がなくても契約自体は成立します(契約書の作成は義務ではなく、義務があるのは上記の「明示」です)。したがって電子契約サービスで締結した雇用契約書も紙と同じく有効です。実務では、電子契約書の中に労働条件の明示事項をすべて盛り込み、通知書を兼ねる形が主流です。この場合も、電子での受け取りを本人が希望したことの記録は残しておきましょう。

なお、2024年4月から明示事項に就業場所・業務の「変更の範囲」が追加され、有期契約では更新上限の有無・内容や、無期転換に関する事項の明示も必要になりました。パート・有期の従業員には、パートタイム・有期雇用労働法に基づく追加の明示事項(昇給・賞与・退職手当の有無等)もあります。ひな形を電子化するタイミングは、明示事項が最新の様式になっているかを点検するちょうど良い機会です。

実務上の助言を一つ。電子化の価値は「印刷と郵送が減る」ことよりも、契約データが検索できる形で貯まることにあります。ファイル名を「入社日_氏名」で統一する、契約書PDFと本人の希望記録・送信履歴を同じフォルダに揃える、電子契約サービスなら本人認証・締結日時のログを保存して契約管理台帳として使う(法定の労働者名簿・賃金台帳とは別物です)——ここまで設計しておくと、労働条件の確認や更新管理が一覧で回るようになります。バラバラの紙をスキャンしただけの電子化で止めないことが肝心です。

根拠労働基準法15条(労働条件の明示) / 労働基準法施行規則5条4項(電子メール等による明示・2019年4月施行)

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勤怠管理は、Excelに各自が出退勤時刻を入力する自己申告制です。法律上問題ありますか?

自己申告制そのものが直ちに違法というわけではありませんが、「原則」ではなく、厳しい条件付きでしか認められない例外的な方法です。 Excelという道具の問題ではなく、時刻を誰がどう記録しているかが問われます。

原則は、使用者が自ら現認するか、客観的な記録で確認することです。厚生労働省のガイドライン(平成29年1月20日策定)は、始業・終業時刻の確認・記録について、使用者による現認、またはタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録といった客観的な記録を基礎とすることを原則としています。さらに2019年4月からは、長時間労働者への医師の面接指導の前提となる「労働時間の状況」の把握について、やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合を除き、客観的な方法その他の適切な方法によることが法律上の義務になりました(労働安全衛生法66条の8の3)。こちらは管理監督者や裁量労働制の適用者も対象で(高度プロフェッショナル制度の対象者は別の健康管理時間の枠組みによります)、記録は3年間の保存が必要です。

自己申告制をとる場合、ガイドラインは次の運用を求めています

  1. 労働者と、労働時間を管理する者の双方に、制度の適正な運用について十分な説明を行う
  2. 自己申告された時間と、パソコンの使用時間の記録や入退場記録など客観的な事実との間に著しい乖離がある場合は、実態調査を行い時間を補正する
  3. 申告できる残業時間に上限を設けるなど、適正な申告を妨げる措置をしない

「各自がExcelに入力するだけ」で終わっている運用は、この2の照合・実態調査が抜けていることが少なくなく、そこが未払い残業の指摘につながる弱点になります。なお、ログオン記録や入退場時刻はそのまま労働時間になるわけではなく、乖離の理由を調査したうえで、指揮命令下にあった時間を認定する、という順序です。

実務上の対応としては、二つの方向があります。一つは、打刻データが自動で記録される勤怠システムやICカード連携に切り替えてしまうこと。手入力のエラーや月末の集計作業も一緒になくなるため、結局これが近道です。もう一つは、Excel運用を続けるなら、パソコンのログオン・ログオフ時刻など客観的なログを毎月の締めで申告と照合し、著しい乖離があれば実態調査と補正の記録を残す運用を組み込むことです。どちらの場合も、集計データがCSV等で取り出せる形になっているかを確認しておくと、給与計算への連携や将来のシステム移行が格段に楽になります。

根拠労働安全衛生法66条の8の3(労働時間の状況の把握・2019年4月施行) / 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)

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従業員の名前や給与データを、ChatGPTなどの生成AIに入力して作業してもいいですか?

「学習に使われない設定にしてあるから大丈夫」——ここで止まっている会社が多いのですが、学習利用のオン・オフだけでは適法性は判断できません。 個人情報保護法の確認ポイントは複数あり、個人情報保護委員会も生成AIサービスの利用について注意喚起を出しています(令和5年6月2日)。

確認すべき論点は、少なくとも次の4つです。

  1. 利用目的の範囲内か(17条・18条)。従業員の個人情報は、特定・公表等された利用目的の範囲でしか使えません。自社の利用目的の文言と、AIにやらせる具体的な処理を突き合わせて判断します
  2. 入力が「第三者提供」や「委託」に当たらないか(27条)。注意喚起が示したのはここで、入力した個人データをAI事業者側が自社の学習等に利用する場合、本人の同意のない第三者提供に当たり得ます。学習利用しない契約・設定は出発点にすぎず、「提供に当たらない」と整理するには、事業者が入力データを取り扱わないこと・適切なアクセス制御等の要件を確認する必要があります。事業者がデータを取り扱う形でサービスを使うなら、委託として契約と委託先の監督(25条)を整えるのが基本線です
  3. 外国にある第三者への提供に当たらないか(28条)。海外事業者のサービスで28条の「提供」に当たる場合は、本人の同意か、相当措置を継続的に実施する体制の確認等が必要になります。該当するかどうかは、提供先・契約内容・アクセス権限の設計で変わるため、個別の確認が要ります
  4. 安全管理措置(23条)。誰が・どの業務で・何を入力してよいかの社内ルールがなければ、従業員が個人アカウントで機密を入力する「野良AI利用」を止められません。なお、マイナンバーは番号法の制限により入力禁止、健康情報などの要配慮個人情報も原則入力対象から外すべきです

実務上の対応は、この確認を踏まえたうえでの3点セットです。①データ最小化と仮名化——氏名や社員番号を削除・置換した形で入力する運用を基本にする(給与データは仮IDに置換すれば大半の作業は成立します。対応表を残す置換は法律上の「匿名加工情報」ではなく社内では個人情報のままなので、対応表の管理と再識別のリスクには引き続き注意します)。②契約と設定——法人契約で学習利用の扱い・データの保存場所・アクセス制御を確認し、個人アカウント利用を禁止する。③規程化——入力してよい情報の区分と手順を文書にして周知する。とくに①は、置換テーブルを1枚かませるだけで実装できる割に効果が大きいので、AI活用を本格化させる前に仕組みとして作っておくことをおすすめします。

根拠個人情報保護法17条・18条(利用目的の特定・制限)、25条(委託先の監督)、27条・28条(第三者提供)、23条(安全管理措置) / 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日)

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社会保険

2026年10月から「106万円の壁」がなくなると聞きました。パートを雇う会社は何をすればいいですか?

「106万円の壁」=短時間労働者の社会保険加入要件のうち「月額賃金8万8,000円以上」という賃金要件が、2026年10月に撤廃される予定です。 2025年6月13日に成立した年金制度改正法(令和7年法律第74号)で撤廃自体はすでに法律で決まっており、厚生労働省は施行時期を2026年10月と案内しています(2026年8月18日時点の情報です。最終的な取り扱いは施行までの公式発表をご確認ください)。

撤廃後、収入調整の中心は「週20時間」の労働時間要件に移ります。特定適用事業所(厚生年金保険の被保険者数が常時51人以上の企業等)で働くパート・アルバイトは、賃金額にかかわらず、週の所定労働時間20時間以上・2か月超の雇用見込み・学生でないという要件を満たせば加入対象になります。時給が上がり続けるなかで「月8.8万円未満に抑える」収入調整は意味を失いますが、企業規模や学生でないこと等の他の要件は引き続き残ります。

一方で、「全パートが直ちに対象になる」わけではありません。企業規模要件(51人以上)の撤廃は2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上と段階的に進み、撤廃は2035年10月です。自社が今どの段階にいるかを先に確認してください(規模は同一法人番号の全事業所の被保険者数合算で判定します)。

会社がやるべきことは3つです。

  1. 対象者の洗い出し。特定適用事業所に該当するなら、週の所定労働時間20時間以上で、月8.8万円未満のため未加入だった人が、施行されれば新たに加入対象になる見込みの人です。雇用契約書・就業規則上の所定労働時間を確認してリスト化します
  2. 本人への説明。手取りが変わる話なので、加入した場合の保険料と将来の給付、労働時間をどうしたいかの意向を、施行前に個別に話しておきます。扶養の範囲で働きたい人が「週20時間未満」へ動くと、シフト全体の再設計が必要になるからです。会社側も、事業主負担分の保険料増を試算しておきます
  3. 労働時間の管理体制。加入判定は原則として契約上の所定労働時間で行いますが、契約は20時間未満でも実際の労働時間が週20時間以上の状態が続けば加入の問題が生じます。所定と実績の両方を人別に把握できる勤怠データの体制が、この改正対応の土台です

10月の施行までに、まず1の対象者リストを作るところから始めてください。

根拠令和7年法律第74号(年金制度改正法・2025年6月13日成立) / 厚生労働省の案内(賃金要件の撤廃は2026年10月予定・2026年8月18日時点で確認)

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月末退職と月末1日前の退職で、社会保険料が1ヶ月分変わると聞きました。本当ですか?

本当です。仕組みがわかると理由も見えてきます。

社会保険(健康保険・厚生年金)の資格喪失日は退職日の翌日です。そして保険料には日割りがなく月単位で、原則として資格喪失日が属する月の分は徴収されません(健康保険法156条3項。厚生年金も同様の仕組みです。なお、入社した月に退職する「同月得喪」の場合は例外的にその月分が発生します)。

  • 3月30日退職 → 喪失日は3月31日 → 喪失月は3月なので、3月分の保険料は不要(2月分まで)
  • 3月31日退職 → 喪失日は4月1日 → 喪失月は4月なので、3月分まで発生

月末退職のときだけ喪失日が翌月にずれるため、当月分の保険料が1か月分多く発生する、という構造です。

ただし「月末の1日前に退職すれば得」と単純には言えません。退職した月に厚生年金・健康保険の加入がない期間ができれば、本人はその月分を国民年金・国民健康保険で納めるか、家族の扶養に入る手続をとることになります。保険料負担が消えるのではなく、負担先が変わるだけのことも多く、将来の年金記録にも関わります。会社の折半負担は減りますが、その説明だけで退職日を月末前に誘導すると、後のトラブルの元です。

給与実務では控除のタイミングに注意してください。法令上、会社は前月分の保険料を当月の給与から控除でき、月末退職のときは退職月分もあわせて控除できます(健康保険法167条)。このため前月分控除(翌月控除)の会社で月末退職者が出ると、給与の締め日・支払日との関係によっては、最後の給与から2か月分の保険料を控除する場合があり、「最後の手取りが少ない」という問い合わせにつながります。退職手続の案内時に一言添えておくだけで防げます。

まず、自社の給与計算が当月控除か翌月控除かを確認し、退職日のパターン別に最終給与の控除額をどう計算するか、ルールを文書化しておいてください。

根拠健康保険法36条(資格喪失の時期) / 健康保険法156条3項(資格喪失月の保険料) / 健康保険法167条(保険料の源泉控除) / 厚生年金保険法14条・19条・84条(資格喪失・被保険者期間の計算・保険料の源泉控除)

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扶養の「年収130万円」に通勤手当や交通費は含まれますか?

社会保険の扶養(130万円)では含まれます。税金の扶養では原則含まれません。同じ「扶養」という言葉で2つの別制度を指しているのが混乱の原因なので、分けて説明します。

社会保険の被扶養者認定(130万円)。健康保険の扶養(被扶養者)に入れるかどうかの判定では、年間収入を税法上非課税の通勤手当なども含めた継続的な収入で見ます。したがって通勤手当・交通費も収入に含めて130万円未満かを判定します(収入認定の枠組みは昭和52年4月6日保発第9号・庁保発第9号)。配偶者の場合は、この認定が国民年金の第3号被保険者の該当にも連動します。なお基準額は、60歳以上の方と障害のある方は180万円未満、19歳以上23歳未満の家族(配偶者を除く)は150万円未満です。

税金の扶養(配偶者控除・扶養控除など)。こちらの収入計算では、非課税限度額内の通勤手当は含めません。「時給×時間だけ数えて大丈夫と思っていたら、社会保険側では通勤手当込みで130万円を超えていた」というのが典型的な行き違いです。

あわせて2点補足します。第一に、勤務先で社会保険に加入するかどうかの判定(いわゆる106万円の壁の月8.8万円の賃金要件)では、逆に通勤手当や残業代は含めずに判定します。壁ごとに通勤手当の扱いが違うのが要注意点です(この賃金要件は2026年10月に撤廃が予定されています)。第二に、2026年4月からは被扶養者認定の運用が変わり、給与以外の収入が見込まれない場合には、雇用契約書等から見込まれる年間収入が基準額未満であれば原則として収入要件を満たすと扱われ、残業などによる社会通念上妥当な範囲の一時的な超過で直ちに扶養を外れない取扱いが明確化されます(令和7年10月1日通達・2026年4月1日適用)。被保険者の収入によって生計を維持しているという要件は引き続き必要です。

まず、扶養の範囲内で働くパートの方の年収見込みを、通勤手当を含めた金額で計算し直してみてください。そのうえで、本人にどちらの「扶養」の話かを確認してから答える癖をつけると、説明の食い違いを防げます。

根拠昭和52年4月6日保発第9号・庁保発第9号(被扶養者の収入認定) / 令和7年10月1日年管管発1001003号・保保発1001003号(労働契約内容による年間収入の取扱い・2026年4月適用)

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週22時間のパートから「扶養から外れたくないので社会保険に入りたくない」と言われました。本人の希望で入らないことはできますか?

要件を満たせば、本人の希望で加入しないことは選べません。ただし現時点では、いくつかの前提を確認したうえでですが、加入義務がない可能性が高い状況です。そして2027年10月からは対象になる見込みです。

現時点の判定。パート・アルバイトが社会保険の被保険者になるのは、主に次のいずれかの場合です。

  1. 週の所定労働時間および月の所定労働日数が、同じ事業所で同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上である(この場合は会社の規模を問わず加入)
  2. 4分の3未満でも、特定適用事業所(厚生年金保険の被保険者数が常時51人以上)または任意特定適用事業所に勤務し、週20時間以上・月額賃金8万8,000円以上・2か月を超える雇用見込み・学生でない、のすべてを満たす

週22時間は、通常の労働者が週40時間なら4分の3(30時間)に届かないので1には該当しません。2についても被保険者数42人であれば該当しませんが、2つ確認していただきたい点があります。1つは、法人の場合、企業規模は同一法人番号に属するすべての適用事業所の被保険者数を合算して判定するということです。この事業所だけで42人でも、他の事業所と合わせて51人以上になれば特定適用事業所に該当します。もう1つは、51人未満でも労使の合意により任意特定適用事業所となっている場合があることです。この2点に当たらなければ、現時点では加入義務はありません。

2027年10月から変わります。令和7年法律第74号により企業規模要件が段階的に引き下げられ、2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上となり、2035年10月に撤廃されます。被保険者数42人の状態が続けば、2027年10月から特定適用事業所に該当します。

なお、月額8万8,000円以上という賃金要件についても、撤廃が法律上すでに決まっています(厚生労働省は2026年10月の撤廃を予定と案内)。ただし2026年8月時点ではまだこの要件が適用されています。もっとも月収9万円とのことなので、この要件自体は現時点でも満たしています。

そして最も重要な点。社会保険の加入は、要件を満たせば法律上当然に被保険者となるもので、本人の希望や会社との合意で加入しないことは選べません。加入させなかった場合、年金事務所の調査で遡って加入手続きと保険料の納付を求められます。2027年10月が近づいたら、対象になる方に事前に説明し、労働時間の設定を本人と話し合っておくことをおすすめします。

もう1点、混同しやすい論点があります。勤務先の社会保険に加入義務がないことと、配偶者などの健康保険の被扶養者として認定されることは別の話です。被扶養者の認定には、原則として年間収入130万円未満であることや生計維持関係があることなどの要件があり、加入対象外だから当然に扶養にとどまれる、というわけではありません。扶養に入れるかどうかは、配偶者が加入している健康保険の基準で別途判定されますので、そちらもご確認ください。

根拠健康保険法3条1項9号(短時間労働者の適用要件) / 厚生年金保険法12条5号 / 令和7年法律第74号(企業規模要件の段階的引下げ)

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育児・介護

3歳から小学校入学前の子がいる社員に「柔軟な働き方」の制度を作る義務があると聞きました。何をすればいいですか?

あります。しかもこの義務は2025年10月1日にすでに施行されています。 改正育児・介護休業法により、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者について、会社は「柔軟な働き方を実現するための措置」を講じることが義務になりました(育児・介護休業法23条の3)。企業規模による猶予はなく、未対応であれば早急な整備が必要です。

やることの骨格はこうです。次の5つの選択肢から、会社が2つ以上を選んで制度化し、対象の労働者はその中から1つを選んで利用できるようにします。

  1. 始業時刻等の変更(時差出勤・フレックスタイム制など)
  2. テレワーク等(月10日以上利用でき、原則として時間単位で利用できるもの)
  3. 保育施設の設置運営等(ベビーシッター費用の補助などを含む)
  4. 養育両立支援休暇(年10日以上・時間単位で取得できる新しい休暇)
  5. 短時間勤務制度

どの2つを選ぶかを決める際には、過半数労働組合(なければ過半数代表者)からの意見聴取が必要です(これは就業規則変更時の意見聴取とは別に、措置の選択段階で行うものです)。また、制度を作って終わりではなく、子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間に、対象者へ制度を個別に周知し、利用意向を確認することまでが求められます(施行日の2025年10月1日時点でこの期間をすでに過ぎていた労働者への個別周知は法的義務ではありませんが、制度利用の対象にはなるため、周知しておくことが望ましい扱いです)。既存の「3歳未満」向けの短時間勤務制度をそのまま流用できるわけではなく、対象年齢層が一段上に広がった、と捉えてください。

中小企業の現実的な選び方としては、シフト制の現場なら「始業時刻等の変更+養育両立支援休暇」、事務中心なら「始業時刻等の変更+テレワーク」の組み合わせが導入しやすい定番です。選んだ措置は就業規則(または育児・介護休業規程)に落とし込み、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、過半数組合等の意見書を添えて労働基準監督署へ届け出ます。

なお、テレワークを選ぶ場合は、制度と実務環境をセットで用意してください。月10日以上使える制度である以上、自宅から業務システムに安全に入れる環境、勤怠の打刻方法、情報の持ち出しルールがなければ、規程はあるのに使えない「絵に描いた制度」になります。規程の条文とIT環境の整備を同じスケジュールに載せることが、この改正対応の実務的な肝です。

根拠育児・介護休業法23条の3(柔軟な働き方を実現するための措置・2025年10月1日施行) / 厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」リーフレット(2026年8月18日時点で確認)

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男性社員から産後パパ育休を2回に分けて取りたいと言われました。可能ですか?手続きと給付金も知りたいです。

2回に分けての取得は可能です。ただし申出は初めにまとめて行う必要があるという条件があり、ここを見落とすと2回目が取得できなくなります。

① 分割の可否。産後パパ育休(出生時育児休業)は、原則として子の出生後8週間以内に通算4週間(28日)まで取得できる制度で、2回まで分割できます(育児・介護休業法9条の2)。ただし分割する場合は、初回の申出時に2回分の開始予定日と終了予定日をまとめて申し出る必要があります。1回目を取った後に2回目だけを追加で申し出た場合、会社はその申出を拒むことができます(会社が任意に認めることは可能です)。本人には、この点を必ず伝えてください。

なお、出産予定日と実際の出生日がずれた場合、取得できる期間が調整されます。予定日と出生日の両方を確認してください。

② 会社側の手続きと期限。申出期限は原則として休業開始予定日の2週間前までです。これを2週間より長く、最長1か月前までとすることもできますが、そのためには育児・介護休業法9条の3第4項および同法施行規則21条の7に定める所定の措置を実施したうえで、その内容と申出期限を労使協定に定めておく必要があります。研修や相談窓口を設けているだけで当然に1か月前にできるわけではないので、自社が要件を満たしているかご確認ください。

会社は申出を受けたら、休業の開始予定日・終了予定日などを書面等で速やかに本人に通知します。給付金は通常、会社を経由してハローワークに申請します。社会保険料の免除についても、要件を確認したうえで年金事務所への手続きを行います。

③ 給付金出生時育児休業給付金として、休業開始時賃金日額の**67%**が支給されます(雇用保険法61条の8)。受給には雇用保険の受給資格のほか、休業中の就業日数・時間や賃金額についての要件があります。

さらに出生後休業支援給付金により、最大28日について13%が上乗せされ、合計80%となります(同法61条の10)。ただしこの上乗せには要件があり、男性の場合は原則として、本人が通算14日以上取得し、かつ配偶者も同じ子について所定の期間内に通算14日以上の育児休業を取得していることが必要です。ひとり親である場合や、配偶者が雇用保険の被保険者でない場合など、配偶者の取得を要件としない例外もあります。配偶者の取得予定を必ず確認してください。

給付金には上限額があり、休業中に賃金が支払われた場合は減額または不支給となることがあります。「手取りが変わらない」と説明されることがありますが、これは給付が非課税であることと社会保険料免除を前提とした一般的な目安で、すべての方に当てはまるわけではありません。

社会保険料の免除も、育休を取れば常に受けられるわけではありません。その月の末日を含む休業であること、または同一月内に14日以上取得することなどの要件があります。賞与にかかる保険料の免除には、連続して1か月を超える育児休業であることが必要です。

なお産後パパ育休とは別に、通常の育児休業も2回まで分割して取得できます。両方を組み合わせた取得計画を立てることも可能なので、本人の希望を確認したうえで設計するとよいでしょう。

根拠育児・介護休業法9条の2(出生時育児休業) / 雇用保険法61条の8(出生時育児休業給付金) / 雇用保険法61条の10(出生後休業支援給付金)

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従業員から妊娠の報告がありました。産休はいつから取れて、給与や手当はどうなりますか?育休はいつまでですか?

産前休業は出産予定日を含めて42日前から本人の請求により取得でき、産後は出産日の翌日から8週間が休業期間になります。給与の支払義務はありませんが、健康保険の被保険者本人で要件を満たせば出産手当金が、雇用保険の被保険者で要件を満たせば育児休業給付金が支給されます。

① 産休の期間(労働基準法65条)。産前休業は、出産予定日を含めて6週間(42日)前から、本人が請求した場合に取得できます。多胎妊娠の場合は14週間(出産予定日を含めて98日)前からです。請求がなければ就業させても違法ではありませんが、実務上は本人の希望を早めに確認しておきます。産後休業は、出産日の翌日から8週間は就業させてはならないという強制的なものです。ただし産後6週間を経過した後に本人が請求し、医師が支障がないと認めた業務については就業させることができます。

なお産前休業は「出産予定日」を基準に始まり、産後休業は「実際の出産日」を基準に数えます。出産が予定日より遅れた場合、その分は産前休業として扱われ、産後8週間は実際の出産日の翌日から数えます。

② 給与と手当。産休中の給与を支払う義務は法律上ありません。無給の場合、健康保険から出産手当金が支給されます(健康保険法102条)。金額は、支給開始日以前12か月間の各標準報酬月額を平均した額を30で割り、その3分の2にあたる額です。対象となるのは産前42日・産後56日のうち労務に服さなかった期間です。ただし健康保険の被保険者期間が12か月に満たない場合は別の計算方法があり、また給与が一部支払われる場合も、その額が出産手当金より少なければ差額が支給されます。なお対象は健康保険の被保険者本人で、国民健康保険の加入者や被扶養者には原則として支給されません。

産休・育休期間中の社会保険料は本人負担・会社負担ともに免除されます(申出が必要)。出産費用については出産育児一時金が別に支給されます。

③ 育休の期間。産後休業が終わった翌日から、原則として子が1歳に達する日(1歳の誕生日の前日)まで取得できます。保育所に入所できないなどの事情がある場合は1歳6か月まで、さらに事情が続けば最長2歳まで延長できます。育児休業給付金は、休業開始から180日目までは休業開始時賃金日額の67%、それ以降は**50%**です。ただし給付を受けるには、休業開始前2年間に一定の被保険者期間があることなどの要件があり、休業中に賃金が支払われる場合は減額または不支給となることがあります。実際に支給されるかは、個別に確認してください。

あわせてご注意ください。妊娠・出産・産休の請求などを理由とする解雇その他の不利益な取扱いは禁止されています(男女雇用機会均等法9条3項)。担任配置の調整は当然必要な業務対応ですが、本人の処遇や契約条件を変更する場合は、不利益取扱いに当たらないか慎重に確認してください。

根拠労働基準法65条(産前産後休業) / 健康保険法102条(出産手当金) / 育児・介護休業法5条・雇用保険法61条の7

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ハラスメント

カスハラ対策のために、就業規則を変える必要はありますか?

就業規則の変更が、カスハラ対策のために一律に義務づけられているわけではありません。

指針は、カスハラに毅然と対応して労働者を保護する方針、カスハラの内容、現場での対処内容などを明確にし、労働者に周知することを求めていますが、その手段を就業規則に限定していません。社内報、パンフレット、社内ホームページ、マニュアル、研修資料などによる明確化・周知も可能です。

ただし、不利益取扱いの禁止、相談窓口、被害者への配慮(配置転換など)、服務規律との関係を継続的な社内ルールとして定める場合は、就業規則またはハラスメント防止規程に盛り込む方法が実務上有効です。担当者が代わっても残りますし、周知の経路もはっきりします。

変更する場合の手続きにはご注意ください。

常時10人以上の労働者を使用する事業場で就業規則を変更する場合は、労働者の過半数で組織する労働組合があればその労働組合、なければ過半数代表者の意見を聴き、その意見書を添えて労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法89条・90条)。同意を得ることまでが届出の要件ではありません

また、変更後の就業規則は、掲示・備付け、書面の交付、電子的方法などにより労働者に周知する必要があります(同法106条)。なお、独立した名称の防止規程であっても、労働条件や服務規律を定めて就業規則の一部を構成する場合は、変更届の対象として扱う必要があります。

10月1日に間に合わせるなら、意見聴取と届出の時間を見込んで、逆算して9月中には案を固める必要があります。

そして最も大事なのは、規程に1行足して終わりにしないことです。 指針は周知・啓発までを含めて措置義務としています。相談先、現場での対処手順、プライバシーの保護、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止まで、実際に従業員へ伝わる形で周知してください。書いたものが届いていない状態は、措置を講じたことになりません。

根拠厚生労働省指針(2026年2月26日告示) / 労働基準法89条・90条

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正当なクレームとカスハラの線引きは、どこで判断すればいいですか?

要求や申入れの内容と、それを伝える手段・態様を分けて検討してください。 現場でいちばん混乱するのは、この2つを一緒に判断しようとするときです。

指針上のカスハラは、①顧客等の言動であり、②労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超え、③労働者の就業環境を害するもの、という3要素をすべて満たすものです。

②の判断では、言動の内容と、手段・態様の両方を見ます。

  • 商品・サービスと無関係な要求や、契約内容を著しく超える要求は、内容の面から許容範囲を超える可能性があります
  • 申入れの内容に理由があっても、長時間の拘束、執拗な反復、人格の否定、土下座の強要、脅迫的な言動などがあれば、手段・態様の面から許容範囲を超える可能性があります

商品の不備について、合理的な範囲で説明や是正を求めること自体は、通常は正当な申入れです。しかし、そのことから長時間の拘束や暴言まで許容されるわけではありません。

ただし率直に申し上げると、具体的な該当性を一律の線で決めることはできません。言動の目的・経緯、会社側の対応、業種・業態、頻度や継続性、労働者への影響、当事者間の関係などを総合して判断するためです。ですから「これはカスハラ、これは違う」という完全な基準表を作ろうとしないほうがいいと考えています。

代わりに、現場が迷わず動ける手順を決めておくことをおすすめします。

  1. 判断を現場担当者ひとりに背負わせない。「一定の時間を超えたら上長に代わる」「同じ要求が繰り返されたら記録して引き継ぐ」など、内容の評価ではなく状況で引き継ぐ基準を作ると運用できます
  2. 迷う事案も広く相談窓口で受け付ける。該当するかを窓口の入口で選別すると、拾うべきものを落とします
  3. 記録を先に取る。日時、対応者、言われた内容、所要時間。後から評価するための材料が残ります
  4. 暴力・脅迫・危害の予告があるときは、判断より退避を優先する。この場面では、対応を続けるかどうかを検討すること自体が危険です

線引きの精度を上げるより、迷ったときに一人にしない仕組みのほうが、結果として従業員を守ります。

根拠厚生労働省指針(2026年2月26日告示)

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従業員が5人しかいない小さな会社でも、カスハラ対策は義務になりますか?

義務の対象になります。労働者を1人でも雇用していれば対象で、規模による免除も、中小企業向けの猶予期間もありません。

パワハラ防止措置が2020年に導入されたときは、中小企業に2年間の猶予がありました。今回のカスタマーハラスメント対策には、その段階施行がありません。2026年10月1日から、すべての事業主が同じスタートラインに立ちます。

「うちは接客業ではないから関係ない」という判断も危険です。対象となるのは顧客等の言動であり、対面の接客に限られません。電話・メール・SNSを通じた顧客対応がある限り、製造業でもIT企業でも士業事務所でも該当し得ます。

ただし、規模が小さいことはやり方に反映されます。指針が求めているのは体制の実質であって、大企業と同じ書類を揃えることではありません。方針はA4一枚で構いませんし、相談窓口も専任である必要はなく、既存の担当者との兼任で差し支えありません。

小規模な事業所がまず着手する3項目を挙げるなら、次のとおりです。

  1. 「顧客等からの著しい迷惑行為には毅然と対応し、従業員を守る」という方針を明文化し、従業員に周知する
  2. 誰に相談すればよいかを決めて伝える(社長本人でも構いません)
  3. 相談を受けたときの記録の残し方を決めておく

⚠️ ただし、この3つで措置義務がすべて満たされるわけではありません。 指針は、これに加えて事実関係の確認、被害を受けた労働者への配慮、再発防止、悪質な事案への対処方針、相談者等のプライバシー保護、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止まで求めています。上記3つは「どこから手をつけるか」の順序であって、到達点ではありません。

とはいえ、規模が小さいほど社長の一言で運用が決まります。逆に言えば、整えるのも早いということです。

根拠改正労働施策総合推進法(2025年6月11日公布・2026年10月1日施行) / 厚生労働省指針(2026年2月26日告示)

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「顧客等」にはどこまで含まれますか?取引先や、利用者の家族もですか?

含まれます。指針が示す「顧客等」は、商品やサービスを購入する人に限りません。取引先、施設の利用者、患者や利用者のご家族などが含まれます。

実務で見落とされやすいのは、次の3つです。

取引先。発注元の担当者から、契約の範囲を超えた要求を執拗に受ける、人格を否定する言い方をされる、といった場面です。「お客様」という意識が薄いぶん、社内で問題として上がりにくい傾向があります。

利用者の家族。介護・医療・保育・教育の現場では、サービスを直接受ける本人ではなくご家族からの言動が問題になることが少なくありません。指針は家族も含めて整理しています。

顔の見えない相手。電話、メール、SNSを通じた言動も対象です。対面の接客がない業種でも、問い合わせ窓口があれば起こり得ます。

ただし、顧客等の言動がすべてカスハラになるわけではありません。指針はカスハラを3つの要素で整理しています。

  1. 顧客等の言動であること
  2. 社会通念上許容される範囲を超えたものであること
  3. 労働者の就業環境が害されるものであること

正当なクレームは含まれません。この線引きが現場での最大の論点になるので、別のQ&Aで扱っています。

なお、同じ2026年10月1日から、求職者に対するセクシュアルハラスメントの防止も義務化されます。採用面接やインターンシップの場面が対象で、こちらは「顧客等」とは別の枠組みです。あわせてご確認ください。

根拠厚生労働省指針(2026年2月26日告示)

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カスハラの相談を受けたとき、記録は何をどこまで残せばいいですか?

法律で様式や保存期間が定められているわけではありません。 ただ、記録がないと後から困る場面が確実にあるので、決めておくことをおすすめします。

記録が効くのは主に3つの場面です。行政から措置の実施状況を問われたとき。従業員から安全配慮義務違反を主張されたとき。そして同じ顧客から繰り返し被害が出ているかを把握したいときです。3つ目は日常的な運用として一番役に立ちます。

残す項目としては、次のあたりが目安です。

  • いつ(発生日時、相談を受けた日時)
  • 誰が(対応した従業員、相談を受けた担当者)
  • 何が起きたか(言われた内容をできるだけそのまま。要約せず、可能なら発言を引用する)
  • どれくらい(拘束時間、電話の回数など)
  • 相手方の情報(把握できている範囲で。取引先名、顧客番号など)
  • その後どうしたか(上長への引き継ぎ、業務分担の変更、相手方への対応)

特に「言われた内容をそのまま」が重要です。 「暴言があった」という記録より、実際の言葉が残っているほうが、後から評価できます。要約すると、書いた人の判断がすでに入ってしまいます。

そして相談者のプライバシー保護を必ずセットにしてください。指針は、相談者や事実確認に協力した人のプライバシーを保護すること、相談したことを理由に不利益な取扱いをしないことを、あわせて講ずべき措置として挙げています。誰でも見られる場所に記録を置くと、相談しにくい職場になります。保管場所とアクセスできる人を決めておいてください。

なお、口頭で聞いて終わりにしないほうがよいのは確かですが、記録の様式そのものが独立した法定の義務というわけではありません。書面がなければ措置を証明できないとまでは言えず、担当者の証言やメール、対応履歴でも説明できる可能性はあります。とはいえ、後から思い出して説明するのは現実には難しいので、簡単な様式を1枚作っておくのが結局いちばん楽です。

根拠厚生労働省指針(2026年2月26日告示)

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カスハラ対策をしなかった場合、罰則はありますか?

措置義務に違反したこと自体に、直接の罰金や刑事罰はありません。ただし「罰則がないから何もしなくてよい」という結論にはなりません。理由が2つあります。

1つ目は、行政の指導です。 措置を講じていない場合、厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象になります。そして勧告に従わなかったときは、企業名が公表されることがあります。これはパワハラ防止措置と同じ枠組みです。罰金より、社名が公表されることの影響のほうが大きい会社も多いはずです。

2つ目は、民事上の責任です。 こちらのほうが実質的なリスクだと考えています。

会社は従業員に対して、生命や身体の安全を確保しながら働けるよう配慮する義務を負っています。顧客からの著しい迷惑行為を放置し、従業員が心身に不調をきたした場合、安全配慮義務違反として損害賠償を請求される可能性があります。

このとき問われるのは、「法律で決まっていたか」ではなく「会社として何をしていたか」です。方針を示していたか、相談を受ける窓口があったか、相談後に何をしたか。措置を講じた記録が残っているかどうかが、そのまま防御になります

つまり、行政の罰則の有無にかかわらず、記録を残しながら対応する体制を作っておく実務上の理由があります。

根拠改正労働施策総合推進法(2026年10月1日施行)

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10月からカスハラ対策が義務になると聞きました。何から手を付ければよいですか?

方針の明文化 → 相談窓口の設置 → 対応フローと記録様式の整備、の順です。施行は2026年10月1日なので、残り2か月で最低限ここまでを形にしてください。

改正労働施策総合推進法により、顧客・取引先・施設利用者など第三者の言動によるカスタマーハラスメントについて、事業主に雇用管理上の措置義務が課されます。労働者を1人でも雇用していれば対象で、規模による猶予はありません。

前提として、対象となるのは顧客等の言動のうち、業務の性質等に照らして社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害するものです。正当な苦情や改善の申入れまでカスハラとして扱わないことも、あわせて社内で共有してください。

1. 方針の明確化と周知。「カスハラには毅然と対応し、労働者を守る」という方針を明文化し、社内に周知します。就業規則や防止規程に条文を置く方法が確実ですが、法律上そこまでが必須というわけではなく、社内文書・掲示・研修資料などでも要件を満たし得ます。逆に、規程に1行加えただけで周知していない状態は避けてください。指針は周知・啓発までを含めて措置義務としています。

2. 相談窓口の設置と周知。誰に相談すればよいかを明示します。小規模な事業所では管理者がそのまま窓口になることが多いですが、その場合でも相談記録の様式と保管ルールは決めておくことをおすすめします。口頭で聞くだけの運用では、後日に対応内容や措置義務の履行状況を確認し、説明することが難しくなるためです。あわせて、相談者や事実確認に協力した人のプライバシーを保護すること、そして相談したことを理由に不利益な取扱いをしないことを定め、これを労働者に周知する必要があります。

3. 事後対応フローの決定。どの段階で現場担当者から管理者に引き継ぐか、どこからは組織として対応するかを、事前に線引きしておきます。「利用者さんだから我慢して」という運用が残っていると、措置義務違反と評価されるおそれがあります。事実確認をした後の被害を受けた労働者への配慮、行為者への対応、再発防止措置までを一連の流れとして決めておいてください。相談を受けた時点で、相談者の心身の状況に配慮することも求められます。

訪問介護の場合、利用者本人だけでなくご家族も「顧客等」に含まれるという整理になります。ご相談のような過剰な要求は、まさに今回の措置義務が想定している場面です。詳しい手順は2026年10月カスハラ対策義務化の記事に、規程の条文例はカスハラ防止規程のひな形にまとめています。

根拠改正労働施策総合推進法(2025年6月11日公布・2026年10月1日施行) / 厚生労働省指針(2026年2月26日告示)

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安全衛生

週28時間勤務のパート職員にも、健康診断を受けさせる義務はありますか?

週28時間で通常の職員が週40時間であれば、法律上の実施義務はありませんが、実施することが望ましいという位置づけになります。

健康診断には、採用時に行う雇入時健康診断(労働安全衛生規則43条)と、1年以内ごとに1回行う定期健康診断(同規則44条)があります。ご質問は定期健康診断のことと思われますので、そちらを前提にご説明します。

対象となる「常時使用する労働者」は、次の2つをどちらも満たす短時間労働者とされています(労働安全衛生法66条1項、同規則44条、平成19年10月1日基発第1001016号)。

  1. 期間の定めのない契約、または1年以上使用される予定がある(更新により1年以上使用されている場合を含む)
  2. 1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上である

ご相談のケースは契約1年更新なので1つ目は満たしますが、通常職員が週40時間だとすると4分の3は週30時間で、週28時間はこれを下回ります。したがって実施義務はありません。ただし、所定労働時間が通常の労働者のおおむね2分の1以上であれば実施が望ましいとされており、週28時間はこれに該当します。

2点、確認していただきたいことがあります。

1つは、常勤職員の所定労働時間が本当に週40時間かです。週37.5時間なら4分の3は28.125時間となり、週28時間はぎりぎり下回りますが、週36時間なら4分の3は27時間なので義務の対象になります。就業規則で自院の所定労働時間をご確認ください。

もう1つは、この方が深夜業などの特定業務に常時従事していないかです。該当する場合は、配置替えの際および6か月以内ごとに1回の健康診断が必要になることがあります(同規則45条)。ただし、深夜の勤務が一度でもあれば当然に対象になるというものではなく、特定業務に常時従事しているといえるか、雇用期間や通常の労働者との所定労働時間の割合はどうかを個別に判断します。なお、業務内容によっては、一般健康診断とは別に特殊健康診断の対象になる場合もあります。

根拠労働安全衛生法66条1項 / 労働安全衛生規則43条・44条 / 平成19年10月1日基発第1001016号

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労災

従業員が帰宅途中にスーパーへ寄り、店を出た後に転倒して骨折しました。通勤災害になりますか?

夕食の買い物は「日常生活上必要な行為」に当たるため、通勤災害と認められる可能性は十分にあります。ただし結論は、買い物を終えて帰宅のための移動を再開していたといえるかによって分かれます。

原則として、通勤の経路を逸脱したり通勤を中断したりした場合、その間だけでなくその後の移動も通勤としては扱われません(労働者災害補償保険法7条3項)。寄り道をすると、そこから先はすべて通勤ではなくなるのが原則です。

ただし例外があります。日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものを、やむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合は、逸脱・中断している間を除いて、合理的な経路に復帰した後は再び通勤として扱われます(同項ただし書)。この「日常生活上必要な行為」には日用品の購入その他これに準ずる行為が挙げられており(同法施行規則8条1号)、夕食の買い物はこれに該当します。

買い物をしている最中は、通常は中断中として対象外です。一方、買い物を終えて帰宅のための移動を再開し、合理的な経路に復したといえる段階に入っていれば、通勤として扱われます。

ここで注意していただきたいのは、「店の敷地内か、外か」という場所だけで決まるものではないという点です。店舗の駐車場内であっても、買い物を終えて帰宅行為に戻り合理的な経路に復したと認定された事例があります。施設の構造、移動の方向、事故が起きた地点などから、実質的に判断されます。

ご相談では「店を出て自宅へ向かう途中の歩道」とのことなので、帰宅のための移動を再開した後と評価される可能性は高いといえます。また、法令上問われるのは「合理的な経路」に復したかであり、普段使っている一本の道に完全に戻っている必要はありません。事故地点から自宅までの経路が、買い物を終えた後の帰宅経路として合理的といえるかで判断されます。

なお、通勤経路上の店でごく短時間、日用品を購入するような些細な行為は、そもそも逸脱・中断として扱われない場合もあります。

実務としては、店舗の場所・普段の帰宅経路・転倒した地点の3つを地図上で確認し、本人からの聞き取りとあわせて記録に残してください。最終的な認定は労働基準監督署が行うため、判断に迷う場合でも請求すること自体は可能です。事実関係を整理したうえで、監督署に相談されることをおすすめします。

根拠労働者災害補償保険法7条2項・3項 / 労働者災害補償保険法施行規則8条

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